答弁の「先送り率」全国 870 自治体の実態
全国 870 自治体・1,897 万件超の議会答弁を集計し、「検討します」「検討してまいります」等の使用頻度を都道府県別に算出。都道府県格差は最大 10.9 倍 (鳥取県 0.96% 〜 富山県 10.46%)、加重平均 3.58%。

1. 何を計測したか
マチカルテは、全国 870 自治体の議会議事録から 18,970,333 件の発言を集計し、その中で「検討します」「検討してまいります」「検討中」など、結論を留保する表現(以下「検討」表現)が含まれる発言の割合を 「先送り率」 として算出した。これは 「議会発言中で『検討』表現が機械的に検出される頻度」 を示すものであり、発言者の意図や文脈(過去形・否定形・将来形・引用)の判別は行っていない。実装上の限界は §5 で詳述する。
先送り率は、必ずしも「自治体運営が悪い」ことを意味しない。重大な案件を慎重に扱う姿勢の表れである場合もあれば、住民への即時応答を回避する姿勢の表れである場合もある。本稿は数値の優劣を断定するのではなく、 都道府県間に最大 10.9 倍の格差 が存在するという事実を提示する。
2. 全国の主要指標
| 収録自治体数 | 870 自治体 |
|---|---|
| 収録発言総数 | 18,970,333 件 |
| 「検討」表現を含む発言 | 679,813 件 |
| 全国加重平均(発言数で重み付け) | 3.58% |
| 自治体単純平均 | 3.72% |
| 中央値(自治体単位) | 3.01% |
| 四分位範囲(P25〜P75、自治体単位) | 1.66% 〜 4.87% |
| 最大 / 最小(自治体単位) | 21.07% / 0% |
| 最大 / 最小(都道府県単位) | 10.46% / 0.96% |
注: 仕様バージョン v1-tier1-500threshold、収録対象は 500 件以上の発言が記録されている自治体に限定。
3. 都道府県別ランキング
自治体ごとの先送り率を発言数で重み付けし、都道府県単位で集計した結果が以下である。本ランキングは 「県内自治体の議会が、どの程度『検討』表現を用いるか」を示す。
先送り率が高い 5 都道府県
| 順位 | 都道府県 | 先送り率 | 収録議会数 | 発言総数 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 富山県 | 10.46% | 4 | 38,810 |
| 2 | 香川県 | 9.41% | 7 | 94,321 |
| 3 | 山梨県 | 6.64% | 15 | 141,770 |
| 4 | 秋田県 | 5.72% | 14 | 110,755 |
| 5 | 岡山県 | 5.70% | 21 | 409,638 |
先送り率が低い 5 都道府県
| 順位 | 都道府県 | 先送り率 | 収録議会数 | 発言総数 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 鳥取県 | 0.96% | 6 | 64,344 |
| 2 | 長崎県 | 1.71% | 15 | 314,439 |
| 3 | 福岡県 | 1.93% | 33 | 411,910 |
| 4 | 熊本県 | 1.94% | 17 | 119,297 |
| 5 | 佐賀県 | 1.96% | 14 | 220,094 |
4. 解釈の注意点
先送り率が高いことは、必ずしも「自治体運営の停滞」を意味しない。以下の解釈が成立しうる:
- 慎重な検討プロセスの表れ: 専門知識を要する案件で、安易な即答を避ける姿勢
- 合議制を尊重する文化: 委員会・専門部会への付託を経る運営
- 事実上の回答留保: 住民や議員からの問題提起を「検討」に持ち越すことで、決定を先延ばしする姿勢
逆に、先送り率が低いことも一様には評価できない。以下の解釈が成立しうる:
- 即決文化が機能している: 議会答弁で「検討」表現を使わずに具体的回答する慣行
- 議論の発生密度が低い: そもそも質問・提案が少なく、検討段階に持ち越す事案が生まれない構造
- 議事録の文体傾向: 議事録作成時の編集慣行で「検討」表現が要約・省略される地域差
本指標は、 「議会でどの程度『検討』が表明されているか」という単一の観測可能な事実 を提示するものであり、自治体の優劣を断定するものではない。読者は、自分が関心を寄せる自治体の数値を、同規模・近隣・他指標と併せて評価することを推奨する。
5. データの限界
- 本指標は 発言の文字列に「検討」表現が出現する頻度 を測定したものであり、文脈(例: 「すでに検討した結果〜」など過去形・否定形・引用形)の判別は行っていない。誤検出の可能性は spec_version v1-tier1-500threshold の校正範囲内で残る。
- 収録対象は 500 件以上の発言が記録されている自治体に限定。発言数が少ない自治体(議事録の電子公開が遅れている地域、町村レベルの一部)は除外されている。
- 議事録の取得期間は自治体ごとに異なり、長期データを持つ自治体と数年分しかない自治体が混在する。各自治体の収録範囲は個別の自治体カルテページ データカバレッジ および 指標の読み方 を参照。
- 「検討」表現以外にも実質的な先送り表現(「研究します」「精査する」「今後の課題とする」「鋭意取り組む」「前向きに検討」等)が存在するが、v1 仕様では「検討」系の機械的検出のみを対象とする。v2 では拡張パターンを評価予定(候補表現は 方法論ページ で公開)。
- 全国合計 (870 自治体) と都道府県別 count 合計 (867 議会) の間に微小な差分があり得る。これは spec_version v1-tier1-500threshold 集計時の自治体・議会の対応関係 (政令市の区別等) に起因する。比率の解釈には影響しないが、件数の厳密な突合せには方法論ページを参照のこと。
出典: マチカルテ(一般社団法人社会構想デザイン機構) / spec_version v1-tier1-500threshold